第5章 好きなわけない
スマホの画面を見て、アンは表情を綻ばせた。
先日サボから連絡があって、今度の土曜日にサボとその彼女、それにエースの四人で会うことになっていた。
お互い仕事をしているから会うのは久しぶりですごく楽しみ。
エースからのスマホのメッセージには近くで待ち合わせして、予約済みの居酒屋まで一緒に行こうと書かれていた。
了解とすぐに可愛らしいくまのスタンプを送る。
(連絡してる相手は弟か?それとも彼氏……?)
アンが微笑む顔を見て、箸が止まった。一体誰にその笑顔を向けているのだろう。
「…彼氏からか?」
「彼氏なんていませんけど」
彼女は顔を上げるといつもの困った顔をして笑って、スマホをしまった。
(面白くねぇ…)
何て彼女に問いかければ、気をこっちに引けるのだろう。
「キャプテン〜!」
仕事終わりにシャチに捕まった。嫌な予感がする。
「今度の土曜日空いてます?他の病院のナース達と合コンなんですけど!キャプテン来るかもって行ったら、すごい喜んじゃって……」
(勝手に決めてんじゃねぇよ…)
生憎その日は当直でもなんでもない、ただの休日。午前中だけ回診に行けば、後はフリーだろう。
「悪いが予定がある」
「ええ〜!?1時間、いや30分でいいから顔出してくださいよ!」
一生のお願い、とシャチは土下座せんばかりの勢いだった。
(めんどくせぇな……)
出会いなんて、求めてもいないのに。
アンは休日はどうやって過ごすのだろう。そればかりが気になって、仕方なかった。