第5章 好きなわけない
今までの恋愛はすべて受け身だった。
誰かを好きになって告白したり、別れ話で縋りついたとか全然ない。
女を取っ替え引っ替えしていた記憶はないが、別れてもすぐ誰かに告白されるので、周りからはそう思われていたかもしれない。
昨夜は全然眠れなかった。
弁当女のことが頭から離れなくて。
「……睨みつけるの、やめてもらえません?」
「目つきが悪いだけだ」
外来が終わって、今日も弁当を取りに来た。少し遅くなったからか、彼女もこじんまりした狭い休憩室でランチ中だった。
(こわいんだよね、その目つき。おまけに今日は目の下に隈あるし……)
「寝不足ですか?」
「まぁな…」(お前のせいだ)
さらに睨みつけるように見つめられた。いつも見下ろされているからか、すごい威圧感。
アン自身も身長は170㎝と女子にしては長身で、見下ろされることはあまりない。
最近やっとルフィに追い越されそうなぐらいで、エースやサボも10㎝程高いだけだから見下ろされるまでに至らない。
(コラソン先生程ではないけど、この人も背高いな…)
コラソンは身長2mは越えているだろう。けれど穏やかで威圧感など感じさせないし小児科の子供達からは大人気だ。
弁当を持ってさっさと戻ると思いきや、ローも同じテーブルについて包みを開けはじめた。
「ちょっ…、ここで食べるんですか?」
負けじとじっと彼を見つめ返す。
「別にいいだろ?」
「だって従業員じゃないでしょ」
呆れたような視線をよそにローは弁当の前で手を合わせた。
「…いただきます」
(意外と礼儀正しい……)
「…昨日、ラーメン屋で焼きおにぎり出してもらったけど、美味かった」
「だってルフィ達すごく食べてるでしょ?申し訳なくって。
お弁当代、ワンコインでいいし、もう払ってもらわなくても…」
「いや、払う」
スパッと即答され、二の句が継げない。
先に弁当を食べ終わって、弁当箱を片付けているとスマホが鳴った。
エースからだ。