第5章 好きなわけない
今日もいつものようにアンはローに弁当を手渡した。
アンがコンビニで働いているのは彼にとっては好都合だった。
誰も彼女の手作り弁当を食べているとはつゆ知らず、取り置きの弁当を取りに来ただけと思うだろう。現に誰かに聞かれたときはローはそう答えていた。
もちろんトラブル防止のためだ。
真相を知られれば、ローに想いを寄せる女子達が黙っちゃいない。
アンもローが苦手だから妙な噂を流されたくないのはお互い様。
弁当を渡すと赤みがかった髪をひとつに束ねたアンはすぐに仕事に戻った。今日も忙しそうだ。
自分だって診察にオペに毎日忙しい。
彼女に構ってる暇なんてないはずなのに、どうしてこんなに気になるのだろう。
仕事終わりにコラソンとラーメンを食べに行った。
「ここのラーメン、うまっ!よくこんな店知ってたな」
「レイジュの弟だとよ」
あの日以来、ローは週に1回は黒足に行く。
アンやルフィに会うことはないが、成長期の高校生はしっかり店にその痕跡を残している。
「よく来てくれるのは有難いけど、あんたもお人好しっつーか、アンちゃん狙いか?」
「えっ!?そうなの?」
「違っ!そんなんじゃねぇよ!」
(おれはただ弁当が食べたかっただけなんだよ…)
「アンちゃん、いい子だからなぁ……。初めて会ったときは彼女まだ高校生でさ…」
「は?」