第5章 好きなわけない
いつものようにアンは仕事中、老婦人に話しかけられた。腰が曲がり杖をついている。
「お嬢さん、これはここに置いてあるの?おじいさんの手術にいるもの、準備するように言われたんだけど」
骨張った指で差し出されたメモには手術に必要なものが書かれていた。
「ちょっと待ってくださいね」
病院の中のコンビニだから、品揃えはそれなりに良い。メモに書いてあるものを見繕い、袋に入れていく。
老婦人は夫が心臓の手術をすることになったのと話し始めた。
「もう年だし、近くの病院では断られてね。諦めてたんだけど、子どもがいい先生見つけてくれて。先生が大丈夫、また元気になって畑仕事できるようになりますよって。
お若くて男前なのに、おまけに優しくってね。おじいさんも先生がそうおっしゃるなら頑張ろうかーって」
「上手くいくといいですね」
「そうなのよ。あら先生ー!」
少女のように瞳を輝かせた老婦人の視線の先にはローがいた。
いつものように無愛想な顔をして。
(……若くて男前でおまけに優しい医者って、この人のことか…)
「ああ…、ヒガシさんの奥さん。手術は来週でしたね」
「よろしくお願いしますよ。先生だけが頼りなんだから」
少し表情を和らげたローに老婦人はニコニコと微笑むと会釈をしてコンビニを後にした。何だか少し若返ったようにも見えた。
「……おばあちゃんにもモテモテですね」
「勘弁してくれよ…」
少しげんなりしたローの顔を見て、ちょっとだけ同情した。
ローの患者からの評判は上々だ。
このコンビニで働いていると医者の評判は色々耳にするが、ローのことを悪く言う人はいない。
よく診て説明してくれるし、処置は的確だし、おまけにイケメン。独身だと知るや否や、子どもや孫と見合いでもと言ってくる患者も少なくないらしい。
(……目つき悪いし、何考えてるかわからない人だけどね…)