第1章 彼の一日
♦︎7:05 出勤
ロシナンテの準備が整うと共に駐車場に行き、シルバーのフェラーリに乗り込む。
元々就職祝いにドフラミンゴがロシナンテに贈った物だが、初めて運転したときにドジって(事故って)いるので、運転はもっぱらローがしている。
元々ローは10歳から17歳まで外国で過ごし免許も取ったので、左ハンドルには慣れている。
今も両親は外国にいるが、妹ラミは日本の全寮制の大学に通っていてたまに会いにくる程度だ。
病院までは15分ほどの距離。渋滞に巻き込まれる前に出勤するのがいつものこと。
♦︎7:20 職場到着
二人が働くサクラ総合医療センターは病床数1000床を超える、全国屈指の総合病院である。
全国もとい、海外からも高いレベルの医療を求めて患者が押しかける。それに三次救急に指定されているから365日休みがなく、病院は動き続けている。
病院に着くと院内併設のコンビニに向かう。
すぐにレジへ向かうと、見慣れた店長の男がやる気なく「いらっしゃい」と言い、コーヒー代を支払いカップを受け取る。
実はこの男、ロシナンテと知り合いらしい。
「クザンさん、こないだ頼んだ医学書届きました?」
「あー、ロシーだったか、医学書頼んだの。物流が滞ってるとか言ってたがいつ届くかは…、忘れた」
適当すぎる返事にもロシナンテは文句も言わず、届いたら教えてくださいと律儀に頭を下げた。
「今日からさ、新しい研修医が小児科に来るんだよ。院長の孫なんだって」
「へぇ…、孫なんていたのか。あのジイさん」
院長のヒルルクと、名誉院長でローとロシナンテが卒業した大学の教授を務めるくれはがこの病院の創設者だ。
ちなみに二人は夫婦とか恋人とかではなく、盟友という間柄らしい。
大学で講義をする傍ら、今も週一で開設するくれはの総合診療科外来は1年待ちだ。
ヒルルクは10年前画期的な新薬を開発し、今は全国で講演に忙しい。ロー達も就職試験ぐらいのときしかまともに話していない。
そんな二人に代わって、今病院を支えているのは副院長の内科医ドルトンだった。