第4章 見返りは弁当を
レイジュの弁当には毎日入っていたはずの卵焼きがない。
残念過ぎると思いつつも箸を進める。
小さめの三角に握られたおにぎりを箸で器用に掴み、口に運ぶ。
(……嫌味か、あの女…!)
ふっくらした食欲をそそる見た目とは違い、あろうことか中には大嫌いな梅干しが入っていた。
頼んだ分際で残すなどできない。
イライラしながら、おにぎりを平らげる。米の炊き加減も、ほんのりついた塩味もちょうどいいのに。
梅干しは元々嫌いだが、これほど奴が憎いと思ったのは初めてだ。
(…しらすだけでよかった…)
弁当を食べ終わった頃、バァンとドアが開いたと思ったらピリリと医局に緊張が走った。
「ローはいるかい!?カンファレンスさぼるなんて、まったく何事だい!?」
他の医者がビビるのも仕方ない。入ってきたのは特注のヘソ出し白衣を着た名誉院長くれはだ。
「…外来が終わらなかったんだ。仕方ねぇだろ」
「じゃあ何でここにいるんだい?途中からでも参加したらいいだろう」
「昼飯、食ってた」
「昼飯?気に入らないね」
このババア、過重労働で訴えてやろうか。昼休憩ぐらい当然の権利だろう。
くれははやれやれと腰に手を当てたまま、ため息を吐く。
「…まあ今回は大目に見てやるよ。コラソンがあんたが朝も昼もまともに飯を食わないって、心配してたしね。ただし、今度さぼったら承知しないよ」
「わかってるよ、先生」
殊勝な愛弟子の態度にくれはは満足そうに、ヒーッヒッヒッと声を出して笑った。
「久しぶりに酒でも飲みながらあんた達と話したいんだけど、忙しくてね。次の楽しみに取っとくよ」
「おれもだ。先生の誘いなら断れねぇ」
それは建前ではなく本音だった。
くれはと話すのはローにとっても何かと勉強になるのだ。