第4章 見返りは弁当を
その弁当は卵焼きはもちろんのこと、唐揚げもさらには高菜おにぎりも美味かった。
「この弁当どうしたんだよ?」
「いや、さっきチョッパーにもらったんだよ」
チョッパーとは今小児科にいる研修医である。名誉院長ヒルルクの孫。
「何で研修医が…?」
「レイジュ先生を尋ねてきた女の人にもらったって言ってたな。ほら、緊急オペ中だろ」
レイジュは昼前から緊急オペに入っていて、まだ終わっていない。
「毎日彼女に弁当作ってるらしいんだけど、今日は取りに来ないから医局まで持ってきたらしくて。よかったら食べてくれって言うもんで受け取ったって」
すでに昼食を済ませていたチョッパーがどうしようかと戸惑っていると、コラソンが医局に戻ってきたらしい。
そして今に至る。
「その女誰だったんだよ。礼とかした方がいいんじゃねぇか?」
その言葉は建前だ。単純に弁当を作ったのが誰か知りたい。
「んー、レイジュ先生に聞けばわかるだろ」
(…教えてくれねぇから困ってんだろ……)
それなら聞く相手は一人しかいなかった。
研修医、トニー・トニー・チョッパーは鼻の辺りに生まれつき青い痣がある小柄な青年だった。
幼い頃からヒルルクとくれはに憧れていた彼は2浪の末、医学部に合格し医者となった。そして念願叶ってこの病院で働いている。
(落ち込むこともあるけど、頑張らなくちゃ……)
そう思いながら廊下を歩いていたから、呼び止める声に気がつかなかった。
「……おい!研修医」
「え?わぁ!?トラファルガー先生!?」
目の前にハイスペックエリート医師がいた。
指導医のコラソンと話しているのはよく見るが、挨拶程度で会話を交わすことはなかった。
「すみません!あ、こないだの小児のオペ、見学したんですけど素晴らしかったです。指示もすごい的確で……」
「オペの感想が聞きたかったんじゃない」
「すみません…」と彼は萎縮した。まるで蛇に睨まれた蛙である。