第3章 エリート医師の恋愛事情
「あら、ロー。あの心臓の子、無事に転院できたみたいでよかったわね」
「ああ。術後も問題なかったからな」
「他の病院からもオペの見学に来てたみたいだし、また名前売れちゃったわね」
医局ではレイジュが弁当を食べていた。
その隣で缶コーヒーを飲みながら、カロリーメイトを食べるロー。
レイジュがあの子と呼んだのは、以前カンファレンスをした小児の患者。無事にオペが終わり、経過は良好で紹介元の病院へ転院した。
それにしても、とレイジュはローを見る。
「またお昼それだけなの?コンビニでおにぎりでも買ったらどう?」
「余計なお世話だ」
そう言いながら、レイジュの弁当を覗き見る。
卵焼きと塩サバ、ほうれん草の白和え、主食は山菜おこわの手の込んだ和食弁当だった。
梅干しとパンは嫌いなローだが、和食は好きだ。
「あげないわよ?このお弁当、絶品なんだから」
「へぇ?どれ…」
ローは手を伸ばし、きれいに巻かれた卵焼きをつまむ。
「ちょっと…」とレイジュが制止する声も聞かずにローは卵焼きを口に含んだ。
ふわふわした食感に舌に残る甘さが絶妙。
(何だ?この卵焼き、マジで美味い…)
料亭や小料理屋で出されてもおかしくないんじゃないだろうかと思ったぐらい、美味い。
二つ目を取ろうとしたとき、レイジュに手を叩かれた。
「何してんのよ!最後の楽しみにしてたのに…」
どうやらレイジュは好きな物は最後まで取っておくタイプらしい。
「…この弁当、誰が作った?母親か?」
「教えない!」
(何だよ…、卵焼きぐらいで)
その卵焼きぐらいに心を奪われたのは紛れもない自分だと言うことを、まだローは気付いてなかった。