第13章 彼の妹
ラミがエースに道案内されてたどり着いたのは、東の海商店街だった。
ここの通りの店は美味しくて安くて学生には人気があるが、ラミはあまり来たことがない。ラミが好きなSNS映えするおしゃれな店が少ないからである。
一度、元カレとフーシャの里という小料理屋に入ろうとしたことがあるが、一見さんお断りなので、と女将から丁重に断られた。それにキレた元カレが暴言を吐いた挙句、誹謗中傷めいた口コミを書き込んで、最終的には弁護士から内容証明が送られてきて、アカウントを削除され出入り禁止。厳重注意を受けた。後にその弁護士はヤクザより怖かったと語っていた。
いや、ヤクザに会ったことないだろ、とラミは思ったがとにかくいい思い出はない。
それなのに、自分は今その店の前にいる。
準備中、と札がかかっているにも関わらず、エースは店の引き戸を開けた。
「こんちわー!アン、頼みがあるんだけどー」
「エース?ちょっとまだ準備中…。うわっ!?」
暖簾をくぐって店の前に出てきた着物姿の女の人は、ラミの顔を見てぎょっとした。すぐにエースの顔を見る。
「どうなってんの?」
「いや、かくかくしかじかで」
エースが事情説明する間、ラミはアンの顔をじっと見ていた。
(この人、昼間の女の人よね?)
すっぴんでジャージ姿からは想像もできない。清楚で上品に化粧をした、女でも見惚れるほどの美人だった。この姿ならローも好きになるかもしれない。
「…妹、なのはわかったけど、困るわよ。うちも居候が二人もいるんだから」
「一人増えたぐらいじゃ変わんねぇだろ。おれもう行かなきゃ仕事に間に合わねぇから」
「えー、もう。
今から船乗るの?気をつけなさいよ」
「はいよ。じゃあな!」
エースは明るくニカッと笑って、ぽんぽんとアンの頭を撫でて、手を振り去っていく。
エースはアンを従姉妹だと言っていた。他愛ないやりとりだろうけど、ラミはお似合いだと思ってしまい、なんだか切なかった。