第13章 彼の妹
「えーっと、妹さん?」
「はい。ラミです」
「ラミちゃん、やっぱりお兄さんに頼るしかないと思うわよ。ひったくりの件はあなたが悪いわけじゃないし、私も怒らないように伝えるから」
ど真ん中の正論を言われては分が悪い。ラミは泣き顔で対抗する。
「でも、お兄ちゃんには迷惑かけたくないんですぅ」
「……とりあえず、店が終わるまでは送って行けないから、奥で待っててくれる?」
アンは砂を吐きそうな顔をして、店の奥を指差した。
なぜだろう。この人達には今までラミが培ったテクニックが通用しない気がする。
開店の時間になって、客が続々とやってきた。奥の和室で待っているラミはスマホもなく、客を観察をしていた。上品な夫婦やサラリーマン風のグループ。年齢層は割と高めで、身に付けている物も高級感がある。
アンやマキノは忙しなく、けれど笑顔を忘れず丁寧に接客していた。
客も和やかな雰囲気の中で皆、写真も撮らずに料理を楽しんでいる。無理矢理店に入ろうとした元カレと自分はなんて場違いだったのだと思い知らされた。
夜も更けてきて、客足が少なくなってきた時、二人連れの男の人が入ってきた。一人はスーツ姿。もう一人はTシャツにハーフパンツというラフな格好をした赤髪の人。
「シャンクス、今日は忙しいのに。ベックはいらっしゃいませ」
「だから、遅い時間に来たんだろ。ていうか、ベックとの扱いの違い、何?」
「日頃の行いだろ」
アンとずいぶん親しげに話して、二人はカウンターの椅子に腰を掛けた。
(大人の男の人だー!かっこいい)
二人ともラミの好みのワイルド系のイケおじで、思わず和室から身を乗り出したら、シャンクスと呼ばれた赤髪の人と目が合い、手を振られて思わず振り返した。
「あの子誰?見習い?」
「違うわよ。トラ男くんの妹だって」
「へぇ。こっち来なよ」
シャンクスに手招きされて、ラミはおずおずとカウンターに向かう。
「ラミちゃん、アレルギーとかない?これまかないだけど」
アンはラミの前のお膳を置く。炊き込みご飯にお味噌汁、卵焼きが入った皿が並べられていた。
そういえば、夕食を食べてないことを忘れていた。