第13章 彼の妹
ダァン!勢いよく、包丁を振り落としたまな板から食材が飛び散る。
小料理屋"フーシャの里"で下準備をしていたアンを、マキノはなだめた。
「アンちゃん、そんな乱暴じゃ食材が可哀想よ」
「あ、ごめんなさい」
「何か嫌なことでもあったの?」
「嫌なことね…」
自分に言い寄ってきた男が、二股かけようとしたクズ男だったことだよ!とは言えず。
(何であんな可愛い彼女がいるのに告白なんてしてきたのかしら…)
ラミは愛らしい見た目で小柄な守ってあげたくなるような子だった。
(女にだらしないことをルフィも見抜いてたのかな…)
アンは高校時代、彼氏と浮気されて別れている。ルフィに話してはないけど、何か気づいていたのかもしれない。
原因は浮気だけではないし、そうさせたのは自分のせいかもという負目はあるのだが、とにかく浮気するような男は大嫌いだ。
「アンちゃん、お味噌汁、味見してくれる?」
「はい。ちょうどいいよ。マキノさん、お出汁変えた?」
「あら流石ねえ」
ふわりと香る出汁の匂いがアンを癒してくれる。
あんなクズ医者なんてどうでもいいや。
彼氏なんかいなくても、私には今の生活があったらいいもの。
࿐༅ ࿐༅ ࿐༅
ラミはエースに連れられて交番で被害届を出した。
(これからどうしよう…)
家の鍵ももちろんない。ラミは思案していた。もうエースに面倒見てもらって、あわよくば彼女の座に…。ていうか、彼女いないのかな?あのジャージの女の人との関係は?
もし彼女だったら奪えばいっか。お兄ちゃんもその方が助かるだろうし、一石二鳥!
ラミはクズ男としか付き合ったことがないので、思考がクズになりかけていた。
ラミは得意のきゅるんとした笑顔をエースに向ける。
「ラミ、エースさんのお家でお世話になるしか…」
「あー、ごめん。ウチ、職場の寮だから、そもそも女の子入れないんだよね。それにおれ、これから仕事に行かなきゃいけないから」
え?うそ、秒でフラれた…?この私が?
「心配しなくていいよ。ちょっと付いてきて」