第13章 彼の妹
(しょーがないから、彼氏でもフレンチに誘おう)
フレンチに行く相手が誰もつかまらないので、バッグを売り飛ばしたクズ彼氏に連絡しようとラミは立ち止まった。土下座すれば許してやらんこともない。
その時だ。背後からゆっくり近づくバイク。運転手がラミのバッグに手を伸ばした。ひったくりだ。
「え?ちょっと返して!ラミのバッグ!」
「待て!!」
ラミのバッグをひったくって、急加速したバイク。それを後ろにいた黒髪の男の人が一目散に追いかけて行く。
「バッグ…。どうしよう。最悪…」
スマホも、財布も、兄のクレカも全部バッグの中だ。楽天的なラミでもさすがに落ち込む。泣きそうになってうつむいていると、ひったくり犯を追いかけて行った男の人が戻って来た。
「あー、バイクにゃさすがに追いつけねぇ。ごめんな。
あれ?トラ男くんの彼女じゃん」
ラミは顔を上げる。ショッピングモールで会ったイケメンだった。
イケメンこと、エースは大丈夫?と優しく声をかけてくれた。ますますタイプだ。優しいし、よく見るとすごい筋肉質な体。
「トラ男くん、一緒じゃねーの?スマホも盗られたよな?ちょっと待ってな、トラ男くんに連絡してみるから」
「待って!お兄ちゃんには連絡しないでください」
「お兄ちゃん?彼氏じゃないのか?」
「あの、さっきはお兄ちゃんがナンパされてると思って、彼女のふりをしてしまって。…それでけんかになっちゃって。ひったくりに遭ったなんて言ったらまた怒られちゃう」
「でも他に頼る奴いるの?」
この時ラミは気がついた。兄以外に頼れる人がいない。両親は海外だし、彼氏も友達も困ったときに駆けつけてくれる人なんて一人も思い浮かばない。
「それは…」
「とりあえず、交番で届出しような」