第13章 彼の妹
夏の終わりの休日。
レイリー空手道場から、今日は一段と稽古の音が響く。
「おい、ちょっと待て、待て!!」
「逃げんな、エース!!」
ちょこまかと攻撃を避けるエースを追いかけるのは、いつもより男らしさが増したアン。片足を上げて仕掛けた、必殺回転蹴りを避けられてバランスを崩す。
(わ、ヤバ)
「だから待てって。そんな捨て身じゃ怪我するぞ」
ため息混じりに軽々と手首を掴まれて転けずに済んだが、アンは悔しさを露わにエースを睨みつける。
「どうしたんだよ」
「別に」
掴まれた手を払いのける。夏の出来事のうっぷんを晴らそうと空手にエースを誘ったのはアンだ。あの告白からずっとモヤモヤしっぱなし。
「…女みたいな顔するなよ」
「女ですけど」
失礼すぎない?今の発言。
くすくすと見守っていたシャッキーの笑い声が耳をつく。
「エース!次、おれと!おれとやろう!!」
一緒に来ていたルフィの稽古にエースが付き合い出して、相手がいなくなったアンにレイリーが話しかける。
「基本に忠実な型がアンのいい所なんだが、今日は雑念が多いようだな。エースが行った通り、怪我をしてもいけないから今日は終わりにしなさい」
「はい…」
エースやレイリーの言う通りなのはアンもわかっている。エースをボコボコにでもすれば気も晴れると思ったが、男の彼に力で敵うはずもなく情けない。
(あれこれ考え過ぎるの、よくないよね…)
帰り際、呼び止められたアンが振り向くとルフィが片足の靴を差し出してきた。
「ねーちゃん、靴壊れた」
「あんた、今年何足目よ」
「育ち盛りだし仕方ねぇんじゃねぇの?すぐそこにショッピングモールできたから行ってみようぜ」
「えー、ジャージ…」
せめて着替えてから行きたかった、とアンはすっぴん・ジャージ姿でため息をついた。