第12章 波乱の夏休み
どくどくと心臓の鼓動がうるさい。
絶対会いたくなかったのにーー。
「…そうですか。それじゃ私」
アンは目を合わさないよう振り返って、ローの横をさっとすり抜けようとした。
「…待てよ。昨日の返事は急がねぇから、ちゃんと考えてくれ」
「昨日の、返事?」
何のことだと言わんばかりのアンの表情。
「いや、とぼけるなよ」
「とぼけてなんて…」
何のことかわからない。
それに、考えたくもない。
ローは苦虫を噛み潰したような顔でため息を吐く。私が悪いみたいな顔をするのはやめてほしい。
「……アン、おれは昨日好きだって言ったよな?付き合うか真剣に考えてほしい」
軽く目眩がする。私はまだ夢の中なのだろうか。
アンは空を見上げた。雲ひとつない快晴。
(白昼夢だよね?これ)
そうに決まってる。何の因果でハイスペックイケメンに告白なんてされなきゃいけないんだ。
断ろう。それ以外の選択肢なんかない。
「……私、誰とも付き合う気ないんで」
「だから返事は急がねぇってんだろ」
空を見上げたまま答えるアンに、さすがにイラついたのかローは吐き捨てるように言った。
昨日の今日で色良い返事がもらえないことぐらい知ってる。
だからわざわざ急がないと言っているのに。
何とかして外堀を埋めていく他ないんだろう。
「待たれても返事は変わらないわ」
アンがローに背を向けて踵を返そうとしたとき、近くの木がガサッと揺れた。
視線を向けると目をまん丸くしたナミが立っていた。