第12章 波乱の夏休み
「…うう……」
頭が痛い。気分が悪い。
症状の心当たりは嫌なほどある。
二日酔い。
一度目を開けると窓から差し込む光が眩しく、また目を閉じた。
ああ、きっと陽が高い。今日は寝坊してしまったと思いながらアンは布団の中で寝返りを打つ。
なかなか起き上がれないのは二日酔いのせいもあるけれど、変な夢も見たからだ。
"好きだ"
甘い告白の言葉の後に、もっと甘いキス。
それは妙にリアルで。夢じゃないみたいで。
あれが現実なわけないのに。
(たぶん一緒にお酒飲んでて、酔い潰れちゃったんだ。
でも私ってば、何であんな夢……)
やっとのことで布団から這い出て、ふらふらしながら階段を降りて洗面所へ向かう。
目を覚さなくちゃ、と冷水で顔を洗う間も夢の中の出来事を何度も思い出す。夢なのに現実にあったことみたいにありありと。
(…やだ、あんな夢早く忘れなきゃ…)
「やあ、アンちゃん、おはよう」
穏やかな声に心底びっくりして振り返るとセンゴクが立っていた。
顔を拭きつつ、どきどきにしている心臓を諌めながら平常心を装う。
「お、おはようございます、センゴクさん。
…すみません、寝坊してしまって。ルフィ達、朝ご飯済ませましたか?」
「ああ、気にしないでいい。アンちゃんもたまにはゆっくり休まないとな」
センゴクの気遣いに感謝しつつ、アンも遅めの朝食にした。
おにぎりと味噌汁を食べて、ちゃっちゃと自分の皿を洗うと、やっと普段の調子が戻ってきた。
夢なんて忘れてしまえばいいだけだ。