第12章 波乱の夏休み
アンが恐れているのはルフィやゾロに見つかって、つまみや酒を横取りされてしまうこと。
ローだってアンに断られたからといって、寝ている彼らを起こすつもりなんてさらさらなかった。
けれどその脅し文句は、意外なほどアンに効果があった。
昼間の座敷に移動して、窓のそばに二人で腰掛ける。この場所からも見事な夜空が見えた。
たいして空腹ではないローは卵焼きを二切れと、泡盛の水割りをもらう。アンの祖父の妹が送ってくれる沖縄の酒だといい、彼女の一番のお気に入りだった。
「シャンクスさんは大丈夫か?」
「ああ、その節はお世話になりました。調子はいいみたいよ」
「いや、わりと有名なジャーナリストだったんだな。政府のお墨付き、とか」
「そうなの?よくは知らないの。あまり仕事の話はしない人だから」
弟と違って、父親と彼女の間には微妙に距離があるみたいだったから深掘りはしない。他人がとやかく言えることじゃないし。
他愛のない世間話をしながら卵焼きを食べる。甘いだし巻き卵のような、酒によく合う味。いつもの弁当のに似ているが少し違う。
一体卵焼きのレパートリーだけでもいくつあるのか。
「よくこんなに美味いもん作れるな」
「やだ、トラファルガーさんたら」
照れたのかアンは頬がほんのり赤く染まる。酒は強いんだろうがそもそも泡盛のアルコール度は高いから、もうすでに酔っているようだ。いつもの警戒感が薄れている。
「ロー、って呼べよ」
「あはは、どうしたんですか?彼氏でもないのに」
うっかり調子に乗ると、悪気のないその言葉がグサッと突き刺さった。