第12章 波乱の夏休み
「ビンクスの酒を〜」
風呂から上がったアンは、我慢できずにすぐに厨房で一杯やって上機嫌だ。
鼻歌まじりにつまみを作る。きのこのホイル焼きともつ煮込み、最後は居酒屋風の卵焼き。母が昔、酒を飲んでいた父によく作っていたものだ。
「海風気まかせ〜」
一緒に暮らしていた頃、シャンクスは酒を飲むと変な歌を唄っていた。外国の海辺の街に伝わる歌といい、いつしかアンやルフィもその歌を覚えてしまった。
しかもそれは美しい夜空につられて、夜の散歩に出かけようとしたローの耳にも届いていた。
階段を降りたところでローは下手な鼻歌と、香ばしい匂いが漂ってくるのに気がつく。厨房からだった。
(こんな時間に?)
それもバーベキューの後に。
不審に思って厨房を覗く。入口に置いていたカゴに気づかず、足が当たってガタッと音を立てたら中にいた人物がすごい勢いで振り返って、こっちがビクッとなる。
「…びっくりした。ルフィかゾロかと思った…」
ほっとしたように、振り返ったアンはため息を吐く。
香ばしい匂いの正体は小皿に盛られたつまみ。近くには泡盛の瓶。
この女は夜な夜な何をやってるんだろうと呆れた。
「どうしたんですか?」
「いや、眠れなくて」
「ああ、お昼寝のせいですか。夜空もきれいだし、お散歩でもしてきたらいいですよ」
アンは酒を口にしながらそう話す。いつになく饒舌そうなのは酒のせいだろうか。
「そうするよ」と答えかけて気が変わった。
思い返せば、アンはバーベキューでは焼いてばっかりでほとんど食べていなかったし酒も飲んでいない。
(最初からこのつもりで…?)
一人で夜中に酒盛りなんて食えない女。
「おれも酒に付き合ってやろうか?弟達にバレたくなけりゃな」