第11章 おばんざい
客が少しずつ帰っていき、客足も途絶えたようだ。
店にいるのはローとレイリーだけになって、ごゆっくりとマキノが食後のほうじ茶を出してくれた。
店は料理も美味かったし妙に落ち着く空間だった。おかげで腹も心も満たされたようだ。
(もうそろそろ帰らねぇと…)
これ以上の長居は店にも迷惑だろうし、明日も仕事だ。
「ごちそうさま。会計をお願いします」
「あら、お帰りですか?アンちゃん、表まで送って差し上げて」
「はいはい」
ずっとレイリーの隣で酌をしていたアンは二つ返事で立ち上がる。
店の外に出るとアンは深々と頭を下げた。
「ありがとうございました。今後ともフーシャの里をどうぞご贔屓に」
さっきサラリーマンに言ったのと全く同じなのが気に障る。
彼女の特別になるのにはどうしたらいいのだろう。
「お前、いつも店に出てるわけじゃないんだろ?」
「そうね、マキノさんから頼まれたら手伝いにきてるけど」
普段はマキノ一人で切り盛りしている。休前日とか忙しそうな日に手伝うぐらいで頻度は多くない。
マキノの料理も十分美味いのだが、できたらアンが居るときがいい。着物姿も見たいし。
「まァ、また来るよ」
「お気をつけて」
心の中では絶対にまた来ると誓って、後ろ髪を引かれる思いでローは歩き出した。
けれどこの夏、ローが店を訪れることは終になかった。