第11章 おばんざい
今日の最後の客だったレイリーも帰って、アンはマキノと後片付けをする。
(何だかモヤモヤする……)
モヤモヤして気持ちが妙に騒つく。気を晴らそうとアンはごしごしカウンターを拭いた。
このカウンターの板はあちこちにキズが目立つ。ルフィが幼い頃つけたものだが、ローは気づかなかっただろうか。初めての客なんてこの席に座ってもらいたくなかったのに。
(モヤモヤする原因、もしかしてこれ?)
汚れが落ちたカウンターを拭き続ける、心ここに在らずなアンを見てマキノは何だか懐かしい感じがした。
熱心に掃除していると思ったら、時々手を止めてぼうっとしたり。
亡くなった親友がアンに重なって見えるのはよくあることだけれど、あの頃のセイラにアンの態度はよく似ている。
いつも穏やかで誰にでも分け隔てなく接する彼女が困ったように話した言葉。
ちょうど二人とも定食屋でアルバイトしていて、シャンクスが店に訪れ始めた頃のことだった。
''どうしてシャンクスさん、毎日のようにここにくるのかしら?あの人が来ると、何でかモヤモヤするのに……"
「親子って、妙なところが似るものね……」
「何が言った?マキノさん」
「ん?さっきのお医者さんとアンちゃん、お似合いだなって」
「そんなわけないよ!変なこと言わないで」
頬を少しだけ赤く染めて、アンは否定した。
あらあらとマキノはくすくす笑う。いつにないアンの反応が面白いと思うと同時に少し寂しくもなる。
(セイラも大人になったアンちゃんと色んな話がしたかっただろうな……)