第11章 おばんざい
「おまたせしました」
カウンター越しにローの前に出されたのは、出来立てのだし巻き玉子と竹かごに盛り付けられた料理。
だし巻き玉子は頼んだが、竹かごの方は何だろう。
刺身や胡麻豆腐、野菜の天ぷらや和え物が乗ってどれも美味そうだが。
「五穀米と白ご飯、どっちがいいですか?」
「じゃあ白ご飯…」
アンは白飯をよそって、ローの前に置く。ほかほかの湯気が立って美味そうだ。
「いただきます」
「どうぞ」と返事をしたのはマキノだった。アンはさっさと背を向けて洗い物をしている。
(可愛くねぇ女……)
ここに来る前はそれ程空腹を感じていなかったのに、何故か料理を前にすると食べたくてたまらないという衝動に駆られた。
だし巻き玉子をひと口頬張ると、至福で思わず笑みがこぼれた。
毎日食べたい美味さだ。ふわふわな食感はクセになりそうだし、だしが効いているのかいつもの甘い卵焼きとは全くの別物だった。
白飯だっていつもの弁当のも美味いが、炊き立てはやはり美味さが段違いだ。店で出すものだから米の品種も違うのかもしれない。
(女将にどこの米か聞いて帰ろうか…)
刺身も新鮮なのか味がしっかりして食感もいいし、天ぷらもサクサクで美味い。いつも食べているのは一体何だったのだろうか。
ローが食べるのに夢中になっていると、ガラガラと引き戸が開いた。
「やあ、空いているかな?」
「レイリーさん!いらっしゃいませ」
アンが慌てて手を拭いて出迎えたのは、逞しい体つきをした老人だった。アロハシャツにハーフパンツという随分ラフな格好だが、その筋肉質な身体からは異質なオーラを放っていてケンカしたらローの方が負けるだろう。
「どうぞ!」
アンはにっこり笑う。そんな笑顔、自分には絶対見せてくれないのに。
(いや、お前おれは断ろうとしたよな……)
やっぱり可愛くない。