第11章 おばんざい
「一見さんじゃねぇよ。コンビニの店長からの紹介だよ」
(店長め…)
クザンもふらりとこの店に立ち寄ることがある。本当に年に数回、たまーにだ。
「でも、お客さんいっぱいだし……」
アンは渋る。
何でこんなに嫌がられるのだろう。一応、父親の命の恩人なのに。
「アンちゃん、忘れ物大丈夫だった?
あらあら、お客様?」
店の引き戸が開いて、品の良さそうな黒髪の女性が顔を覗かせた。萌黄色にひまわり柄の着物。アンより一回りぐらい年上で美人女将、といった風貌だ。
「いらっしゃいませ。カウンターでよろしいですか?」
「マキノさん!」
マキノは不服そうなアンを横目に、にっこり笑って「どうぞ」と店の中へ案内してくれた。
外見通りこじんまりした店の中はカウンター以外はサラリーマン風の客で満員だった。わりと年齢層は高めだ。
お客さんがいっぱい、というアンの言い訳はあながち嘘ではなかったらしい。
「アンちゃん、だし巻きお願い。一番のお客様よ」
「はーい」
カウンターからはアンが卵を混ぜて焼き上げる過程が垣間見えて、すぐにふわふわのだし巻き玉子が出来上がった。
(おれもあれ頼もう。あとは…)
メニュー表を見ているとどれも美味そうで目移りする。
「先生、決まりました?」
マキノは真剣に悩むローを見てくすくす笑う。
「いや、色々あり過ぎて。とりあえずだし巻き玉子」
「はいはい」
マキノがアンに耳打ちをして、だし巻き玉子ができる間話し相手になってくれた。
「そういや、さっき何で先生って」
「あら、トラファルガー先生でしょう?エースくんとサボくんからよく話は聞いていたから。やっとお会いできてうれしいわ」
(アイツら……。でも、それで店に入れてくれたのか)
それなら感謝しないといけないだろう。
「エースくんのお友達のマルコ先生も時々来てくださるんですよ。この間はアンちゃんがレイジュちゃん連れてきてくれたし。お二人からもとっても腕が良いってうかがってたんですよ」
どうやら職場の人間に先を越されていたらしくて、癪に触った。