第11章 おばんざい
その店は東の海商店街の一番端にあるらしい。
店名がわからないのでは探しようがなかったが、ローは商店街をぶらぶら歩く。
古そうな店が多いが、活気がある商店街だった。
ジンベエ親分の回転寿司、定食屋ゾウ、シャッキーのぼったくりバー、シフォンとローラのケーキ屋パウンドハウス、ジュエリーピザなど飲食店が軒を連ねる。
ローは知る由もないが、名店の宝庫なのだ。
色々な店を通り過ぎて、一番端まで来たけれど目当ての店は見当たらない。
(…見過ごしたか?)
とはいえ、店の名前がわからなければ人に聞くこともできない。
そのときガラガラとドアが開く音が聞こえ、民家のような小さな家から着物姿の女性が出てきた。
ローはその姿に釘づけとなる。
「お客様!お忘れ物です」
「ああ、すみません。ありがとう」
彼女は年配のサラリーマン風の男性に忘れ物を差し出して、微笑って丁寧に頭を下げた。
「いいえ。今後ともフーシャの里をどうぞご贔屓に」
男性の姿が見えなくなるまで見送って、店に戻ろうと踵を返す。
「おい」
「げっ!」
ローに横から話しかけられて、その女性、アンは思わず素の声を出した。
(げっ、てなんだよ……)
「あー…、こんばんは。偶然ですね」
アンは営業用の笑顔を作ると、そそくさと店へ戻ろうとする。
彼女の真正面に立ち、行く手を塞いだ。
「そんな格好で何やってる?」
「何って、バイトです」
彼女は夏らしい朝顔柄の藍色の着物にピンクの帯。髪はひとつにまとめてアップにしている。
完全にローのストライクゾーンど真ん中だ。
民家と思った店には小さく"小料理屋 フーシャの里"と看板があった。ここがクザンが言っていた店に間違いない。
「この店、飯食えるんだよな?」
「でも一見さんお断りなんで」
アンはどこまでも素っ気ない。