第11章 おばんざい
聞けばアンは高校のとき、空手の全国大会で三位にまでなった実力らしい。
それも男子の部。女子だと全く相手にならないから。
ちなみに一位はエースで二位がサボ。判定でも勝敗がつかなかった決勝戦は前代未聞のジャンケンで決着した伝説の試合として後世に語り継がれている。
ーーと、帰る前に寄ったコンビニの店長が教えてくれた。
アンはすでに帰った後だ。
「高1のとき、半グレ集団を一人でぶっ潰してなぁ…。元々あのガープさんの孫でガキの頃から変質者狩りまくって、警視庁にも目ぇかけられてたのよ。
それが今じゃ、しがないコンビニの副店長か…」
(どんな武勇伝持ってんだよ…)
それにこの気怠そうな店長も捜査一課の青雉とまで言われて、次期警視総監に推薦されたやり手ながら、上司とケンカして警視庁を辞めた過去があるらしい(コラソン談)。
(アイツの周り、曲者ぞろいだな)
「あんたもめんどいのに目ぇつけたな」
「余計なお世話だよ」
ピッとクザンがレジを通したのは今日当直のコラさんに差し入れするための栄養ドリンクだ。
今日の夕飯はひとりぼっち。腹もそんなに減らないし、軽いもので済まそうと思ったのに。
「それにしても、お前あれだ。アンの飯がそんなに食べたいんなら東の海商店街にある小料理屋に行ってみたらいい」
「どこだよ、それ」
「えーと、名前は……、忘れた」
(マジかよ、それ一番大事なとこじゃねぇか…)