第10章 青い果実
アンはすぐに規則正しい寝息をたて始めた。
生まれた時からそばにいるのが当たり前。幼いときはセイラを本当の母だと思っていて、従兄弟同士という関係もよくわかっていなかった。
小学校に上がる前にアンとセイラは上京することになって、二人がいなくなったら急に寂しくなって、サボとわんわん泣いたっけ。
連休があればお互い行き来してたけど、ある年の夏休みにアンは赤ん坊を抱っこして帰省してきた。
「私の弟よ」って嬉しそうに。
ちょっと、いやかなりうらやましかったな。
そのときもシャンクスも一緒に帰ってきて、めちゃくちゃ遊んでもらったな。
「父ちゃんも弟もいて、いいな」って言ったら、「シャンクスはそうでもないよ」って答えたからガチでシャンクスは落ち込んでた。
お互い少し時間を空けて会うたびに背が伸びて、アンは少しずつ女らしくなっていった。いや、中身はそんなに変わらないだろうけど。
赤い髪が伸びて、身体つきも当然自分達とは違って、コイツ女だったんだと時々再確認する。
あの日もそうだったな。
穏やかな寝顔だった。
ずっと眠れない夜が続いていたみたいだったから。
納戸の中でアンに胸を貸して、エースは壁にもたれる。
その温度に吸いつくように、アンは胸元から離れなかった。
(アンってこんな顔してたっけ…?)
いつもしっかり者の従姉妹は自分達よりも少しだけ大人びて見えた。
でも今、胸の中にいるアンは弱々しくて、力を込めると壊れてしまいそうで。
間近で顔を見つめることなんて、今まであっただろうか。
''エースの彼女?めちゃくちゃ美人じゃん!"
地元を一緒に歩いていて、勘違いした同級生からはよくそう言われる。
赤く腫れて、隈ができた疲れた目元を撫でる。少しカサついた唇も紅をさしたよう。
(手入れしろよ、カサカサじゃんか)
そう思ったときには、自分の唇がアンの唇に触れていた。