第9章 彼女の願い事
よく晴れた空を、飛行機が横切って高く高く上がって行く。
空を見上げたルフィは飛行機を指さした。
「ねーちゃん!あのひこーき、とーちゃんがのってる?」
「乗ってるわけないじゃない」
シャンクスが戦地に出向いて行ったのは一週間前。もう日本にいるはずもない。
「じゃあ、いつかえってくるんだ?」
「知らない」
幼稚園に通うルフィの手を引きながら、帰りを急ぐ。シャンクスが出て行ってから弟の迎えはアンの役目。この元気が有り余っている弟は手を繋いでいないとすぐにいなくなる。
「えー、ねーちゃん、とーちゃんにあいたい!あいにいくぞ!!」
「もー、そんなの無理よ」
駄々をこねるルフィは反対方向へ走り出そうとする。首根っこを捕まえて、片手で抱き上げて脇に抱えた。
「はなせ!おにばばあー!!」
「どこでそんな言葉覚えたのよ!私まだ中学生なのに!」
父は戦場ジャーナリストとして、また外国へ出て行った。色々悩んでいたみたいだけど結局仕事を選んだんだ。
家族よりも、母よりも。
油断していたらルフィが手に持っていた棒のようなものをぶん回す。
「いたた!何持ってんのよ、ルフィ!?」
「あー、たなばたのかざりつくった。ねーちゃんもねがいごとかいていいぞ!」
それは幼稚園で作った七夕飾りだった。笹に折り紙で作った飾りや札を引っかけて、"にくがいっぱいたべたい"や"おれはからておうになる"と下手くそな字で願い事を書いていた。
「願い事ねぇ……」
思い浮かぶ願い事はひとつだけだった。
しょうもない父親のせいで少し寂しげな顔をするようになった母のために。
"また四人で暮らせますように"
でもそれは一生叶わなかった。