第9章 彼女の願い事
「ねぇ、シャンクスさんて、私のお父さんなの?」
子猫とじゃれるアンに屈託なくそう聞かれて、シャンクスは絶句した。
なんて答えたらいいか思いつかなくてしどろもどろになっていると、猫にバイバイと手を振ってアンは立ち上がった。さっさと歩き出したので慌てて後を追う。
「あのね、お母さんが私のお父さんはとっても明るくて太陽みたいな人だって言ったの。シャンクスさんに会ったあと、お母さんすごく嬉しそうだったんだ。
でも違うんなら別にいいや」
(ああ、なんてこった……)
頭の回転が追いつかないまま、アンに縋りつくように話しかける。
「もしも、おれがアンのお父さんで、今もお母さんのことが好きだったら、どうしたらいいと思う?」
「んーと、今でも大好きって伝えたらいいんじゃないかな」
それは簡単なようですごく難しいこと。
シャンクスの不安なんて意に介さないようにアンはにっこり笑った。
その後、アンが言った通りにセイラに自分の気持ちを伝えた。セイラが好きな白い百合の花と一緒に。
困ったように、でも嬉しそうに、微笑んだ彼女はその想いを受け入れてくれた。
それから程なくして家族三人の生活が始まった。隻腕のせいで仕事には就けなかったから主夫同然で、まだ8歳のアンに家事のいろはを色々教わった。
次の年にはルフィが生まれて、その成長を間近で見れるのは嬉しかった。アンのときは叶わなかったから。
平穏で幸せな日々。これ以上望むことなんて他にないと思えた。
そのはずなのに、また自らこの幸せを手放してしまったのだ。