第9章 彼女の願い事
「にゃー」
アンの足元で猫が鳴き声がする。いつかの子猫が足に擦り寄っていた。すぐ近くの茂みに母猫もいる。
「ちょっと待ってね」
アンは茂みの母猫のそばまで行くと、ランドセルからキャットフードを取り出して二匹に食べさせた。
「お母さんには内緒だよ。本当は野良猫にご飯あげたりしたら怒られちゃうから」
「なるほどな。わかった」
シャンクスは、ハハッと笑った。些細なことだけど二人だけの秘密ができて嬉しい。
アンはシャンクスをじっと見る。ちょうど太陽の光が逆光になり、眩しそうに目を細めている。
「……なんだよ」
「シャンクスさんて、明るい人だよね。太陽みたいに」
「そんなこと初めて言われたな。…セイラ、アンのお母さんこそ、月みたいに静かで優しい人だ。ずっと昔から」
静かに優しく、それでも道を踏み外さないように見守ってくれていた。離れていても月を見上げれば彼女のことを思い出すことができた。
戦地で心も身体もボロボロに傷ついた、眠れない夜でも。