第9章 彼女の願い事
どうしたらいいのだろうと考えながら、数週間が過ぎた。
左腕を失って日本に戻って新しい仕事を探そうと考えていたが、このまま二人を知らんぷりして生きていこうとだけは思わない。
あれからはベックマンの家に居候している。
新しい依頼が入ったらしく、忙しい彼の代わりという名目でアンの様子を見に行くのが最近の日課になっていた。
下校時間に合わせて、通学路を通るとアンが向こうの方から歩いてきた。
「よぉ、アン。学校は楽しかったか?」
「……シャンクスさんて、無職なの?ベックさんの方がよかったな」
(このくそガキ……)
アンは他の子よりずっと大人びていた。
ちゃんと宿題はするし、小料理屋でも母親のお手伝いばかりしていた。お菓子やおもちゃにもなびかないし、全然懐いてくれない。
「おれは無職じゃない。戦場ジャーナリストだ」
「じゃーなりすとって何?」
初めてアンが興味を持ってくれた。ここぞとばかりに力が入る。
「世界中にはまだ戦争をしている国がある。その国の実情を伝えるのがおれの仕事だ。写真や映像を残したり、記事を書いたりするんだ」
「へぇ…、ちゃんとお仕事してるんだね」
まだちゃんと理解できないだろうが、アンは少し驚いていた。今まで本当に無職のおじさんだと思っていたらしい。
よっしゃ!っとシャンクスは心の中でガッツポーズをした。
「アンは大人になったら何になるんだ?お母さんと同じ料理人か?」
「ううん。私、ベックさんみたいな弁護士になるの」
「ベックマンみたいな……?」
「うん。ベックさんみたいに頭が良くて力も強かったら、お母さんを守ってあげられるから。ベックさんが来てくれるようになってから、変な人がお母さんにつきまとわなくなったの」
(アイツ何やってんだ……。まさかセイラ狙いだったりして)