第9章 彼女の願い事
「こんな所にいたのか。寄り道するなとあれほど……」
髪の長い男がタバコを咥えながら歩いてきた。その姿には見覚えがある。
「おお、ベックマン!久しぶりだなー!!」
旧友との再会に頬が綻ぶ。ベン・ベックマンはお頭と呼んで慕ってくれた友人の一人。冷静で頭が切れた彼は弁護士になると言って某大学の法学部に通っていた。
「頭!?何であんたがアンと…!?」
珍しく目を見開いて驚くベックマンはその場に立ち尽くした。
「何だ?ちゃんと生きてるぜ。積もる話があるんだ。ヤソップやルウも元気か?」
「……頭、あのガキ誰だかわかって一緒にいるのか?」
ランドセルを背負った少女は今度は桜の木の下に咲く野花を摘んでいた。
「ん?今そこで会ったばかりだぞ?」
「あんたって人は……」
ベックマンは長い長いため息を吐いた。
少女の名前はアンという。この4月から小学2年生。
この8年間でベックマンは無事に弁護士になり、小さな個人事務所を持っている。仕事はまだ少なく、昼間一人で心配だからとアンの母親に頼まれて時々様子を見に来ていると言った。
今日も家を訪ねたら案の定帰宅しておらず、通学路を通って探しに来たのだという。
アンの家は小さなアパートだった。首に下げた鍵を出してドアを開ける。
「ちゃんと鍵閉めて、おとなしく宿題してろよ」
「はーい。ベックさん、おじさんまたね!」
「言い忘れたけどおれはおじさんじゃないぞ!まだ28だ!」
全部言わないうちにドアが閉まって、アンに伝わったかはわからない。
「ま、いっか。それにしても随分甲斐甲斐しいな。あの子の母親、お前のコレか?」
「…どうしたもんかねぇ……」
小指を立てた見当違いのシャンクスにため息しか出てこない。