第9章 彼女の願い事
桜の木から落ちてきた少女を抱き止めた後、シャンクスは地面に思いきり尻もちをついた。取材していた戦地で左腕失っていて、その衝撃に耐えきれなかったからだ。
「いてて…」
「あ、おじさん、ごめんなさい!」
おじさん、と呼ばれてショックを受けた。まだ20代なのにこの髭面のせいだろうか。
「…怪我ないか?お嬢ちゃん。木に登ったりしたら危ないぞ」
「平気だよ。おじさん、ありがとう」
シャンクスの腕をほどいて、地面に膝立ちした少女はよく見ると腕の中に子猫を抱いていた。
「にゃあ」と小さな声で鳴いた子猫は、腕の間をすり抜けると母猫の方に駆け寄っていく。さっき木の幹の所にいた猫だ。
甘えるようにすり寄った子猫は首根っこを咥えられ、すぐに二匹の姿は見えなくなった。
「あの子が木から降りれなくなったみたいでずっと鳴いてたの。よかった、お母さんの所に戻れて」
「子猫を助けようとしたのか。だけど気をつけるんだぞ」
「うん!」
頭をよしよしと撫でると少女はにっこり笑った。何故かその顔は別れた恋人によく似ていると思ってしまいさっと右手を上げた。
(おれ、重症だな……)
たまたま出会った少女に彼女の姿を重ねてしまうなんて。