第9章 彼女の願い事
ルフィの顔をじっと見つめる。
たいしてあの患者には似ていない。母親似だろうかと思ったときに思い出した。
アンの家で見た母親の遺影は、シャンクスがパスポートに挟んでいた写真の女性によく似ていた。
それでどこかで見たことがあると思ったのだ。
(…マジかよ…)
あの写真の赤ん坊がルフィで、赤髪の少女がアン。写真を撮ったのはおそらくシャンクスなんだろう。
アンは母親似だと思ったけれど、髪の色やスッとした鼻筋は父親似なのかもしれない。
「トラ男?突っ立ってどうした?」
「ああ…、その患者の主治医はおれだ。ちょうど家族に説明したいと思ってたんだ。……姉を呼んでこい」
♠︎
とはいえ、先に患者に話を通さなければならなかった。
家族はいないと言っているのだから何らかの事情があるのに違いない。
しかしシャンクスと話すことはできなかった。ICUに戻ったローを待ち構えていたのは、事態の急転。
シャンクスのベッドを囲み、忙しない様子の看護師達。
「どうした?」
「先生!今、連絡しようと。
先ほどから急に呼吸状態が悪化して……」
心拍監視装置のアラームが鳴り続く。血中の酸素を示す表示が下がったまま上がらない。
息苦しさと痛みで胸を押さえて苦しむ患者の様子を見て、ひとつの結論に至る。
(くそっ…!血栓が飛んじまったか……)
一番恐れていたことが、起きてしまった。