第2章 彼女の一日と弟の放課後
ヴィンスモーク家は代々外交官の家系。
四人の弟は一人を除いて、皆外交官になり世界各地にいるという。
都内有数の進学校に進んだレイジュとは高校は別で、中学卒業以来会っていなかった。
偶然再会した日の夜、一緒に飲みに行きお互いの話をした後、弁当の話になった。
「いつもアンのお弁当は美味しそうだったもんね。ねぇ、あたしにも作ってよ。お金払うから」
一人暮らしの麻酔科医レイジュは自炊する時間もままならない。昼食ぐらい手料理が食べたいわと言うレイジュに毎日ワンコイン弁当を作ることになった。
休憩時間が合えば一緒に食べたりもするのだが、今日は午後からオペが立て込んでいるらしくレイジュは「ごち♡」とウインクすると足早に去って行った。
それに昼時はこちらも忙しい。ダラダラ客の商品を袋に入れる店長を横目にレジを打つ。
アンは副店長としてコンビニの仕事を精一杯こなすのだ。
「じゃあ、コビーくん後よろしくね。わたし、裏にはいるけど」
今日の勤務は20時まで。大学生のアルバイト、コビーと交代する。たまにやる気が空回りしてしまうけれど真面目ないい子だ。
「任せてください!副店長、早く帰ってくださいね!」
裏に行こうとしたとき、客が二人入って来た。
「こんばんは〜。あ、アンちゃんもしかして今から上がり?おれ達も今仕事終わったばかりで!」
最近、顔見知りになったばかりのオペ室看護師のペンギンとシャチだ。昼と仕事終わりによくこのコンビニに来る。
「よかったら、ご飯でも一緒にどう?」
「あ、ごめんなさい。今日は在庫確認しておかないと。お疲れ様でした!」
笑顔で誘いを断って裏に回る。残りの残業を終わらさないと。
腹ペコの弟達には今日はおでんを作ってきたから温めて食べてるはずだ。
♦︎21:30 業務終了
残業が終わるとコビーに一声掛けてコンビニを出た。駐車場に行き、ヘルメットをかぶって愛車のハーレーにまたがる。隣のフェラーリはもういない。
(よくいることも多いけど、今日は帰ったのね…)
きっと働き者のお医者様なんだろう。コンビニで会ったことがあるのかもしれないけど。
足で蹴りエンジンかけ、ハーレーを駆動させる。
夜道を風を切りながら自宅へ向かう。弟達が待ってるから。