第9章 彼女の願い事
当直明けで眠くてたまらない。
チョッパーは帰るまでの間、小児病棟のナースステーションでカルテを見ていると、子ども達がわいわい騒ぐ声が聞こえ始めた。
「わぁ!コンビニのおねえちゃんが七夕持ってきたー!」
「コラソン先生!みんなで願い事書くのー?」
「そうだよ。看護師さんが短冊と鉛筆、用意してくれてるからね」
「やったー!先生も一緒に書こう!」
「コラソン先生、この辺でいいですか?」
アンはナースステーション前のホールに笹を設置する。
すぐに子ども達が集まってきて、キラキラした純粋な瞳が眩しい。
「先生、どうしたんですか、これ」
「おれがクザンさんに頼んでたんだよ。たまにはイベントみたいなことしたいなーって」
見上げると立派な笹だった。
字が書ける歳の子ども達はさっさと願い事を書くと笹に吊るしていく。
"ちゃんと病気が治りますように"
"早く家に帰れますように"
「ぼくも皆の力になれるように頑張らなくちゃ」
"コラソン先生のドジが治りますように"
「おれの心配してくれるなんて…」
"トラファルガー先生のお嫁さんになれますように"
「これ、ガチのやつだな。ローに教えとこう」
「アンさん、ありがとうございます」
「私は運んできただけだから。あとチョッパー先生にはコレ、店長から。夜中にひどい顔でコンビニに来てたって。ちゃんと休んでくださいね」
アンから手渡されたのは栄養ドリンク。ありがたくて泣きそうだ。
「昨日、敗血症の患者さんが入院して…、ぼくもトラファルガー先生みたいにきちんと早く診断ができるようになりたいんですけど」
「隻腕の人だったな、外国帰りのジャーナリストだって。家族がいないみたいとか言ってローが困ってたよ」
(隻腕の、ジャーナリスト…?)
胸の奥がざわざわする。
「家族のこと、教えてくれるといいんですけど。あ、アンさんみたいな綺麗な赤い髪の人なんですよ」
心のざわめきは止まらない。