第9章 彼女の願い事
(……夢見、サイアク…)
いつものようにアンが出勤すると、休憩室には無造作に笹が置かれていた。
先に来ていた店長クザンに聞いてみると、意外にも彼が準備したらしい。
「ロシーに頼まれてなぁ、小児科の子ども達に七夕みたいなことさせたいんだと。おつるちゃんが竹林もってるから、頼んで取ってきた。後で持ってっといてよ、アン」
「へぇー、店長にしては気が利くことしたわね」
ここで働いていて小児科の患者の中には顔見知りになった子もいる。きっと喜ぶだろう。
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出勤すると、大体一番最初にICUに行く。
ローが昨日入院した患者の状態を真っ先に聞くと、ようやく目が覚めて少し話ができるようになったと看護師が教えてくれた。
「でも、お身内はいないって言われるんです。もしもの時だけ知人の方に知らせてほしいって」
「困ったな。急変の可能性もあるから家族に説明したかったんだが…」
看護師と悩んでいてもラチがあかないので、患者の元に足を運んだらチョッパーがいた。
「先生!おはようございます!!」
「…おはよう」
朝からこのテンションはうざい。当直明けでネジが一本飛んだのだろうか。
「シャンクスさん、主治医のトラファルガーです。具合はどうですか?」
「ああ……、あんたが主治医の先生…。世話になったんだな…」
赤い髪に無精ひげを生やした男はベッドに横になったまま、気怠そうに呟いた。
「日本に戻る前はどちらに?」
「内戦中の国にちょっと…、そこでした怪我が原因なんだろ?今、チョッパー先生から聞いたよ」
「できればご家族に病状の説明をしたいのですが」
「看護師さんにも言ったけど、家族はいないんだ。治療のことは先生に任せるよ…」
「でも、シャンクスさん…」
何か言いたげなチョッパーをよそに患者はすうっと目を閉じる。まだ熱は高いし話すだけでも身体の負担も大きいだろう。
「先生、ぼくはシャンクスさんって、ご家族いると思うんです。この写真…」
チョッパーはこっそり棚の上の写真をローに見せた。昨日みつけたものだ。
「どっから取り出したんだよ、勝手に見ていいもんじゃねぇ…」
そう言いつつ、写真をガン見する。
(……赤ん坊を抱いてる人、どこかで見たような…)