第9章 彼女の願い事
「この僕を呼び出すなんていい度胸だな!トラファル・ガー・ロー!」
緊張感漂うICUに甲高い大声が響いた。今日は本当に心臓に悪い日だ。
キラキラしたオーラを放ちながら、チョッパーの後ろに立っていたのは形成外科医キャベンディッシュだ。
彼の美貌と技術は患者・職員を問わず数々の女性を虜にしているが、オペ中は全く人相と人格が変わるので実は二重人格じゃないかと噂されている。
「悪いな。お前じゃないと診れないと思って」
彼を呼び出したローがさらりと答える。
お前じゃないと→信頼→ローはファン、という図式が成立したキャベンディッシュは片手で顔を覆った。
「クッ!ファンの頼みか、断れない……!
どれ、見せたまえ!……確かに銃創だな。ひどい感染だ。よし、この患者は僕が引き受けよう」
「いや、今深部静脈血栓が見つかった。ウチと共診してくれ」
「何だと!?この僕に主治医を渡さないつもりか?」
「…そういや、こないだ紹介した術後の患者、思った以上に傷が綺麗になったって喜んでたぞ。半年先までオペが詰まってて、形成外科は大変だろうな」
「うっ!ファンの気遣いか…!いいだろう!循環器病棟でも毎日診察しに行ってやろう」
(本当にここって色んな医者がいるわ。勉強になるわね……)
上級医二人のやりとりを見て、ビビはこっそりそう思った。