第9章 彼女の願い事
ICUで治療を始めてしばらくするとその患者の状態は安定してきて、「何かあったら呼べ」と言ってローは帰宅した。
ビビも行ってしまい、患者の前にはチョッパーがひとりきり。
(トラファルガー先生、当直じゃないのに巻き込んでしまった…)
「あれー?キャプテン帰っちゃった?」
ひょっこりICUに顔をのぞかせたのは、ベポだ。患者の荷物を持ってきてくれたようだ。
チョッパーが大きめのボストンバッグとパスポートを受け取ると「よろしく」と言ってベポは忙しそうに持ち場に戻って行った。
「わっ、ちょっと待って…」
ベポの背中を見送っているとはらりとパスポートから写真が落ちてきて、慌てて拾う。
角が少し折れ曲がった、年月を感じるその写真に写るのは産まれたばかりの赤ん坊を抱いて微笑む若い女の人と、その赤ん坊をのぞき込む少女。
(何だろう?…家族の写真?そういえばこの人のご家族は……)
パスポートから名前と年齢はわかったが、彼が目覚めないことには家族に連絡の取りようがなかった。スマホはロックされていたし、連絡先のメモらしきものもない。
(きっと心配しているかもしれない。早く目が覚めて、連絡が取れますように…)
祈ることしかできないのがもどかしかった。