第9章 彼女の願い事
シャチとペンギンと他愛ない話をしながら準備していると、救急車のサイレンが聞こえて緊張が走る。
すぐにストレッチャーに乗せられた患者が運ばれてきた。
チェックアウトの時間になっても部屋を出てこないことを不審に思ったカプセルホテルのスタッフが訪ねると、意識が朦朧とした状態でベッドに横になっていたらしい。
付き添いはおらず、詳しい状況は不明だった。
「病院ですよー!わかりますかー?」
少し伸びた赤い髪に筋肉質な身体をしたその男性はペンギンの呼びかけにも薄目を開けるだけで返事をしない。
そばで衣服を脱がしていたシャチが大声を上げる。
「うわ、この患者さん左腕がないっすよ!びっくりした…」
「古い傷があるな。何年も前に切断したんだろうが…。それより問題は足だ、多分こっちが感染源だろう。おい、バイタルは?」
「体温40℃、血圧70台です。点滴全開で落としますよ」
患者の右足は腫れ上がっていて、足首の近くにいびつな形の黒ずんだ傷があった。膿んでいて、チョッパーにもこれが元凶だとわかる。
「変わった傷ですね…」
「多分銃創だな」
(…銃創?え、日本なのに?)
そう疑問が浮かんだ時、事務担当のベポが走ってきた。
「キャプテン!その患者さんの荷物の中にパスポートがあったから、カルテ作ってるよ!それにこの人最近まで外国にいたみたいだよ。中東からアフリカの方とかすごく色んな国行き来してたみたい」
「なるほどな…。医療水準が低い所で傷の処置を受けて治り切ってなかったんだろう。
蜂窩織炎による敗血症性ショックだ。意識が戻るまでICUでしばらく様子を見よう」
検査をいくつかして、その患者はICUに入院することになった。