【文スト】Vanilla Fiction【江戸川乱歩】
第2章 冬
両親がいつ絶命したのか、よくわかりません。気がついたときにはどちらももの言わぬ屍体になっていました。
血が飛び散っていくさまを、よく覚えています。私の頬や服にも点々と紅が散っていました。徐々に広間を赤く染める鮮紅色が、瞼に焼きついて消えないんです。
私は泣きませんでした。ひと言もしゃべりませんでした。やがて、警察車輛の赤い灯が見えて、ようやく私は気がつきました。どうやら、椅子に座ったまま硬直していたようで、立ち上がってみるとあちこちの関節が痛みました。
仮面の人間の、最後の言葉が忘れられません。
「どうだったかな、私のショウは。お嬢ちゃんも、きっと一生忘れられないね」
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