第4章 +アルファ/夢主はイルミの幼馴染
「仕方ないな。今夜は一緒にいてあげようか」
「えっ ほんとに…?!」
「こんな天候じゃ今日はどうせ客足悪いだろうし」
「あたしもお店に連れてってくれるの?」
「いや。オレ1人が当欠したってフォローきくだろうから」
「?」
「オレをアテにし過ぎてるアイツらにはむしろいい薬かも。行くよ」
「イル兄!待って!」
雨の音、足音、ざわめく声。天気に限らず都会はごちゃごちゃした音が多い。
「こういう時はあっという間に部屋が埋まるから」
足早にその場から動くイルミの声は雑音のせいでユイの耳には殆ど聞こえなかった。
ユイは本日、半日近くをこのハワージェラルで過ごす事になった訳だが 街の構造がまだよくわからなかった。複雑に入り組んでいるように見えるが そのどれもが物理的にはそう遠くないらしい。
気を抜けば見失う程のスピードで人混みを進むイルミは すぐに目的の場所に辿り着く。一緒に建物の中に入れば 急な静寂に身体が慣れず耳鳴りがする気がした。
小走りでついてきたせいかユイの息は少し上がっていた。
「はあ、はあ…」
「ちょっと待ってて」
「あーあ、もう 折角のお洋服が濡れちゃったよ~…」
「ミートソース食べておきながらよく言うよね」
ずぶ濡れまではいかないが いきなりの雨に身体も頭も不快に水分を含んでいる。入り口の奥に進むイルミの背中を見届けた後、ユイは辺りを見回した。
静かで綺麗なこの建物はホテルであろう。ユイ自身はまだその辺の知識は多くはないが 一般的にイメージするホテルと比較し やや薄暗く雰囲気がムーディーであると感じた。そういえば他の客もいないしフロントマンやベルボーイもいない。
やや不思議に思っていると すぐにイルミが戻ってくる。
「……イル兄 ここってホテルだよね?」
「うん」
「都会のホテルってこんな感じなの?」
「こんなって?」
「なんか暗いし人いないし」
イルミはエレベーターに向かいながらユイの質問に返答した。
「そういう意味では立地じゃなくて営業目的の違いだよ」
「営業目的?」
「“ラブホテル”って知ってる?」
「え…っ、…ここ?…」
「そう」
ユイの足がピタリと止まる。