第4章 +アルファ/夢主はイルミの幼馴染
「ユイ」
「え」
「じゃあオレにこれ買って」
「これって?」
イルミの目線の先には煙草の自動販売機がある。小走りでそこに近付くと 取られた札を返された。
「イル兄煙草吸うの?」
「うん。仕事の一部でもあるし 欲しがる客もいるから一応持っておかないとまずいしね」
イルミが喫煙者であるという認識はなかったが ひとまず納得するしかない。ユイは自販機に札を挿入し 四角い箱の陳列先を見た。
「イル兄 どれを買えばいいの?」
「二段目の右から3番目」
「わかった」
指定品のボタンを押すと コトっと商品が落ちる音がする。
イルミに購入物を手渡すと 煙草はすぐに胸元の内ポケットに隠される事になった。
「じゃあこれでユイとは貸し借りなしってことで」
「煙草だけで?これだけでほんとにいいのかな…」
「十分。そもそも出してもらえるうちが花だよ」
完全に罪悪感を払拭出来たわけではないが、たった少し返せただけでもユイの心苦しさは少なからず減少する。
そのまま店を出るイルミの背中に続いた。
ユイは瞬時前の光景を思い出す、新しいことをするのは対象が何であれワクワクするものである。
「あたし今日人生で初めて煙草買っちゃった」
「それは一つ大人になったね」
「イル兄の好きな煙草の銘柄も覚えた」
「そう。しばらくは変えないと思うから機会あったらまた貢いでね」
「うん わかった」
「冗談なんだけど。貢ぐってちゃんと意味わかってる?」
今日はこれでさよならであるが 春からは同じ街にいる事になる。
冗談だろうが本気だろうがきっとまた そんな機会が来る気がする。
その時に少しづつ返していけばいいだろう、そう胸に思い ユイは自然と笑顔になった。