第4章 +アルファ/夢主はイルミの幼馴染
「イル兄ってカルボナーラ好きだったの?」
「好きっていうか1番人気だからとりあえず。その店のレベルや雰囲気知るには人気物見るのが早いから」
「へえ~。そうなんだ」
ここで少し ユイは気になった事を訊いた。
「ならイル兄のいるお店はどんな感じ?人気1番の人ってどんな人?」
「1番持ってるのヤツ?なんかよくわかんない男」
「よくわかんない?」
「うん。この前“夢を手に入れる経営と帝王学”とかいう本読んでたな、何を目指してるのか意味がわからない」
「そうなんだ」
「純利益で言えばあの店はまだ小さいけど 成長率で見ると今後はウチのライバルになり得るかもわからない。そういう意味では油断ならないけどね」
「へえー」
ホストとは単純に 女の人とお酒を飲み 楽しませる場を提供する仕事かと思っていたが、ユイが想像するよりも難しいことも含まれるらしかった。
食事を終え 本格的な夕食時となり店内が賑わい出す頃、ユイは席を立つイルミの手元を罪悪感と共に見た。必然とばかりに伝票が握られているのだから さすがにそろそろ財布を出さないわけにはいかないと思う。
お茶代、洋服代、ヘアカット代、さらに食事までとはいくら相手が知り合いの大人とは言え 普通の感覚でいけば申し訳なくなるのも当然だった。ユイはレジへ向かうイルミの背中に声を掛けた。
「イル兄 お金出すよ」
「いいよ これくらい。そんな高いモンでもないし」
「でもさすがに悪いよ!せめて自分の分くらいは…」
「いらないよ。進学祝いってことで」
何かにつけイベントに便乗した理由を提示するのは ホストという職業柄なのだろうか。少しも受け取る気はなさそうなイルミは カード一枚であっという間に会計を始めてしまう。
「行こうか」
近づくイルミにせめて食事代くらい、と握った札と共に再提案をしてみてもそれはスルリと断られてしまう。ユイは奢られ慣れていないし 嬉しいや得をしたという気分よりも先に 兎に角悪いように思えて仕方が無かった。
「しまっておきなよ」
「でも、…」
ユイは困った顔をしている。イルミはユイの手に握られる数枚の札から 一枚だけをスッと抜き、店の入り口へ歩みを進めた。