第4章 +アルファ/夢主はイルミの幼馴染
だいたい紹介するならば 幼馴染の一言で済むのにやたら小面倒に表現されたことがどうにもやるせない。ユイは黙って固まるしかなかった。
女は綺麗な笑みを見せ 両手でイルミの手首を取る、そこに収まる腕時計で勝手に時間を確認してから ますます高い声を出した。
「ヤダぁ また替えたの?私があげたヤツは?」
「あれは高価すぎてさすがに普段は使えないよ。イベント用」
「わ!やばっ!もうこんな時間!また電話するねー」
「出れるかどうかは時の運だけど」
「もおっ着歴あったら掛け直して?じゃあね またお店行くね~」
「うん。待ってる」
カツカツと忙しく踵を鳴らす女性が去ればその場は急にシンとする。一切のフォローも説明もないイルミに代わり、ユイが小声で口を開いた。
「…今の女の人、イル兄のお客さん?」
「そう」
「すごく美人だね」
「ああ見えて女社長だから。女性起業家ってヤツ?相当金もかけてると思うよ」
先程女が触れたイルミの手元を盗み見た。袖口からちらっと覗く時計のブランド名すらも 当然だがユイは知らない。
確かに幼少期を過ごして来たし、互いの事を知ってはいる。ただそんな淡い過去はこの街の中では全く役に立たず、ユイはここに座っている事自体がお門違いだと宣告された気持ちになった。
「…あたしと一緒にいるの見られるのやっぱりまずいの?」
「別に。どうして?」
「田舎者のあたしといて、イル兄、…恥ずかしいかなって…」
イルミはスッと背筋を伸ばす、後ろのソファにもたれると そのまま脚を組んでいた。
「ああ さっきのアレ?会社持ってる人間にはビジネス絡みで答えた方が信憑性高いから」
腕時計で時間を見た後 イルミは顔を伏せスマホを片手でいじりだす。落ちる長い前髪をゆっくりかきあげていた。
同じ地区出身であるはずなのに。何の特別感もない単純な仕草がやけに遠く見えた。
ちらっと喫茶店の大窓に目を向けてみる。そこには洒落っ気も魅力もないユイと街中を速足に過ぎ行く人々が見えた。自意識過剰なつもりは毛頭ないが そこまで芋臭いと言われるならば それはそれで落ち込むものもある。
「……ねえイル兄」
「なに」
「私ってその、そんなに田舎くさい?見るからに田舎者って感じする?」
「うん。そう言われると」