第2章 同業者/夢主は元お客様
イルミは 散らかるテーブルを見渡した。
いつの食べ残しなのかもわからない 乾いたコンビニパスタがほんの少し残っている様子が視界に入る。そこに 固まった脂が媚びりつくプラスチックのスプーンとフォークがあるが 渡したところで無意味であろうか。
もはやこの儀式の終わりを待つしかない。
「はあ…はあっはあっ…はぁ」
女は ものの数分で全てを貪り食べ尽くす。肩を大きく上下させながらその身を丸め 空いたコンビニ袋に顔を突っ込む。
すぐに第二ラウンドがスタートする。
「げほっおえ、っ、おえぇっ」
体を晒す仕事を始めてしばらくした頃、この女はこの行為について「痩せている方が指名をもらえるから」とそれらしい理由をつけていた。
ただ痩せたいが為ならば食す量を調整すればいいし、一瞬で汚物にするくらいならむしろ食べなければいい。女のする無価値な行動は イルミからすれば どこまでも滑稽にしか見えない。
わかるのは、彼女はこの行為と引き換えに正気を得ているという点だ。
「はぁっ、はあ はあはああはあ、おえっ、…げええええっ 」
元来人間の身体は食した物が逆流しないように出来ている、うまく吐けないのか下手な嗚咽が続く。
片手を喉の奥に突っ込み 胃液と混ざる前に何とか外に追い出そうと必死になっている姿は、普段の愛らしい容姿からは想像すら出来なかった。
「…………、ず…………」
「は?」
「水!!!!!!!!!!!!!!!!」
切羽の詰まる悲痛の声。
イルミからすれば面倒極まりない、何故ツケをそのままに飛ぼうとした女に ここまでしてやらねばならないのか。
それでもこの「作業」を終えぬことにはまともな会話も出来そうにない、仕方なしに冷蔵庫を開けてみる。中は空っぽでペットボトルの一本すら入っていない。
シンクに置かれたままの洗われていないグラスに水道水を汲み、それを女に差し出した。
「……………ん。ふ、げぇっ おえ」
女は水を一気に飲み干す。水分が潤滑液になり得たのか 再び同じことが繰り返される。
バカバカしくて付き合っていられない。
イルミはその場を離れると 服が数枚脱ぎ捨てられたままになっている大きなソファまで移動する。服をフローリングに勝手に落とした後、空いたソファにゴロリと痩躯を預けた。