第2章 同業者/夢主は元お客様
イルミは振り返りもせずに人混みに溶け込んでしまう。
それを目で追いながら ヒソカはネオンが眩しいビルに背中を預け腕を組む。胸元からタバコを取り出しそれを片手で口元へ運んだ。
素早く火をつけた後、唇をゆるりと曲げた。
「……バカはどっちなんだろう」
高級住宅街と高層マンションで構成されている閑静な駅までタクシーで移動する。この時間になれば空いているのはコンビニくらいであるが、気取った地域にはその店舗すら限定されている。
駅前に唯一ある 明るい店に足を運んだ。
「いらっしゃいませー」
場所に不似合いなコンビニに加えこの時間帯ともなれば当然他の客などいやしない。種類を見もせずに プラスチックカップに入ったコンビニスイーツやスナック菓子を適当にカゴに入れた。
「1635ジェニーです」
クレジットカードを差し出すと アルバイトの女性店員が控えめに声をかけてきた。
「あの、時々…いらっしゃいますよね」
「ああ、うん。ちょっとね」
「この辺にお住まいなんですか?」
「いや 仕事の絡みで用があるだけ」
チラチラ顔を覗いてくる女性店員を見下ろしていると、ふと先程のキャバクラ内での会話を思い出す。
「女の価値をどこに見出すか」との話題、ヒソカの言い分は至極的を得ているし肯定出来るが イルミとしてはさらにそこにもう一つ大事な前提条件を付け加えたくなる。
「…また来て下さいね」
「個人的にはもう来たくないんだけどね」
「えっ」
「嘘嘘。また来るから今度オマケしてよ」
「…あはは、この地域高級だしお釣りいないってお客さんは多いけど オマケって!そんな事言うお客さん初めて」
ほにゃんと笑う店員をよそに度々鳴る携帯電話をちらりと確認した。客にすらなり得そうもない女はそもそも視界に入らない、適当に会話を終わらせ 店を出た。
向かう先はここから数分。
この区間内でも一際目立つ 超がつく高級マンション、一直線にそこへ足を運ぶ。
立派なエントランスを抜け セキュリティシステムがこれでもかと設置された入り口を通る。嫌でも記憶している部屋番号を入力すればカチリと一瞬で施錠が解かれる。