第5章 square/夢主2人/キャバ嬢/裏
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とかく愛らしい声色で話すリオンが去れば 部屋は一瞬で静寂へ落ちる。忙しなく動いているのは スマホ画面の上にあるルナの親指だけだった。
今月はまだ数字の伸びが芳しくないし、表面だけの甘いメールは放っておけば溜まる一方だ。ざっくり中身を確認した後 優先度の高いものからひたすら返信をする。音のない部屋の中、それを繰り返していた。
そういえば、とふと思う。いきなり入浴しようとしていたヒソカに 1人きゃぴきゃぴはしゃいでいたリオンの他、この部屋には自分含め4人の人間がいたはずだが 最後の1人はどうしたのだろうと一度目線を回してみる。
窓際にある椅子にだらりと腰掛け 明るい携帯画面と顔を向かい合わせているイルミの姿があった。互いに邪魔せず干渉せず、今は派生業務の時間であるらしい。こちらとしても願ったりだ、ルナはまた 視線を画面に戻した。
「………………イルミさーん」
「ん」
「何してるの?」
「甘えてるの ルナに」
悪いがちっとも似合っていない台詞と合わせ、やっている事もなんだか滑稽にすら見える。のそりとやってきたイルミは 膝枕みたいな体制をキープすると腰に両腕を回し ルナに顔を埋めてくる。
「私の膝 高いけど」
「ヒソカにつけておいて」
ポジションが決まればイルミはピタリと動きを止める。こちらもアクションを返さなければ それ以上は何もない。
ルナはイルミの頭をテーブルにし、作業の続きを進めた。
ようやくひと段落し スマホをベッドに置いた。
人肌に包まれる腰回りに目を落としてみれば 相変わらずイルミは止まったまま、ピクリともしなかった。目の粗いザルとはいえ そういえばイルミは強めの酒をかなり呑んでいた、一瞬この人死んでるんじゃないかと思う程だった。
だが、よくよくみれば広い背中は微かに呼吸で動いているが 寝ているのかもわからなかった。薄暗い中でも尚、艶のある髪は滑らかで そこをそっと一撫でしてみた。
ルナは視線を上げる。文句と共に浴室に姿を消したリオンはその後ぱたりと静かになり出てくる気配がない。声を落とし、呟いてみる。