第5章 square/夢主2人/キャバ嬢/裏
ヒソカはグイグイ押し進んでくる。
上背のあるヒソカの進度は想像以上に速く 顔が触れそうで 可能な限り身体を引いた。だが努力むなしく すぐに背中は鏡にぶつかってしまう。身を小さくすればするほど 高いヒールまでもが洗面台に乗ってしまいそうだった。
近過ぎる顔だって目と鼻の先だ。脱衣場を覆うライトは淡くも明るいのに 大きなヒソカに影を落とされ、視界が黒と白の二色に染まる。ヒソカの耳元を飾るピアスが光を吸いやけに煌めいていた。
「イルミのどこがそんなにイイの?」
「色々…全部」
「抱かれたコトないクセに」
「っ だから今日これからするんだもん!」
ムキになりそう返せば 小さな悪戯をされる。胸の谷間に唇が触れ そこを深く舐められた。
「や、何してンの…」
「味見」
「アタシの身体はイルミのなんだから!」
「知ってるさ だから味見だよ」
圧力で窒息するんじゃないかと思う程 胸に顔を押し付けられる。寄せた谷間をこじ開ける様に 舌を押し込まれた。焦ってそこへ顔を向ければ 唾液を塗りつけるように 怪しく笑うヒソカがいる。胸元にチクリと 心地いい痛みが走った。
「チョット……っ」
「ア、もう痕がついちゃった」
「何すンのバカっ!明日も出勤なのにっ」
「これは失礼」
逞しい首を片手で押し退け 逃げようと身体を捩る。
片目に飛び込んでくるのは 鏡に写る自身の横顔だった、想像以上に焦った顔をしていて 一瞬自分に驚いてしまった。鏡を見ながら表情を整えたくも ヒソカがそれを邪魔し 鏡の中の自分はヒソカの掌に覆われる、最後の退路までもを完全に塞がれてしまう。
「な、何考えてんの……」
大体 全裸に近い状態で迫られ、後ろは鏡なのだから 不自然に肌色の面積が多すぎる。ヒソカの作る箱の中にでも入れられた気分だった。嫌でも、ヒソカの声にのみ鼓膜が集中してしまう。
「静かにね」
「え、」
「ルナの機嫌がもっと悪くなると 後がコワイだろ?」
ヒソカは一旦その場を離れる。入り口のドアを悠然と閉めに行く姿を目で追った。今の間に逃げる隙はあったのに、なぜか身体が動かなかった。
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