第7章 揺れるびいどろ、恋ノ花模様 * 織田信長
「本当にありがとうございます、大切にしますね!」
すると、美依はふにゃりと笑ってみせた。
ああ、このように愛らしく笑うのならば、贈った甲斐があったというものだ。
俺は一回美依の額の髪を掻き分け、そこに軽く口づけを落とす。
そして、そのまま美依の手を取り…
指を絡めて、ゆっくり歩き出した。
「……行くぞ、美依」
「っ……はい」
こうして、二人きりで逢瀬を楽しむ。
それは天下取りと言う血塗られた道を歩む俺には、たった一つの"安らぎ"だ。
そんな安らぎを得る事は、もしかしたら許されない事なのかもしれない。
それでも───………
もう俺は、美依を手放す事など出来ないけれど。
────そんな溺愛している事実が
まさかの"感情"を生み出す事になるのだが
「すごい、人がいっぱい…!」
「はぐれぬようにな、手をしっかり握っていろ」
「はいっ…信さん、あそこ見てもいいですか?」
人の賑わう中、美依と手を繋いで露店を見て歩く。
露店には女が喜びそうな装飾品や、歩きながら食べられる食べ物など、たくさん並べられていて…
そんな中美依は、何にでも興味深々と言ったように目をキラキラさせて、視線をあちこちに向けていた。
(本当に、愛らしいにも程がある)
くるくると変わる表情。
興味の対象が移る度に目が輝き、笑顔になったり驚いてみせたり。
好奇心旺盛なのは知っていたが、こう愛らしい表情を見せられると内心堪らない気持ちになってくる。
こう、輝きが七色に変わる様子。
何かに似ているな…と、少しだけ思案して首を傾げた。
と、その時だった。
「見ろよ、あの曼珠沙華柄の浴衣の女」
「へぇ…可愛いな、でも男連れじゃないのか?」
(……?)
そんな話し声が聞こえ、思わず視線を泳がす。
すると、少し離れた所からこちらを見る、男達二人の姿が確認出来た。
そして、その視線の先は露店を見る美依。
明らかに…好奇の目だ。
美依を狙っているとでも言うのか。
美依が可愛いなどは当たり前、しかし…
そのような色目で美依を見るな。