第7章 揺れるびいどろ、恋ノ花模様 * 織田信長
心の中に、もやっ…と黒い感情が湧く。
美依を愛らしいと思っていいのは俺だけであって、この女は俺のものなのだから。
俺は一回繋いだ手を離すと、代わりに美依の細い肩を抱く。
すると、露店を見ていた美依はそれに気づき、若干首を傾げながら俺を見上げてきた。
「信さん?」
「人が多い故に、この方が安全だ」
「あ…そ、そうですね……」
すると、少し照れたように頬を染める美依。
そのように愛らしい顔をするから、周りの男共が貴様を見るのだ。
視線を先程の男達に向ければ、男達は少しだけバツの悪そうに、そそくさとその場を去っていった。
美依を狙おうなど、百万年早い。
俺が傍に居る時は、絶対そんな事はさせない。
────そんな事あろうものなら
すぐさま斬って捨ててやるとさえ思う
「信さん、そろそろ行きましょうか」
「露店はもういいのか?」
「はい、ありがとうございます」
「なら、林檎飴でも買いに行くか」
「わっ…食べたいです!」
俺達はそのままの姿勢で、再度露店を見ながら歩き出す。
美依がまた目を輝かせて露店を見る中、俺は注意深く周りを観察していた。
さすれば───………
恋仲の男が肩を抱いていると解っているのに、男とすれ違ったりすると、そやつは美依の事を見ていた。
なんだか、見惚れるような目つきで。
熱っぽいような視線を、何人も美依に送っているのに気が付いて……
(────気に食わんな)
また心に立ち込める黒い靄(もや)が濃くなる。
それは心全体を覆って……
なんだがドス黒い感情となって俺を支配し始めた。
美依が可愛いのは知っている、解り過ぎるくらいに。
これだけ愛らしい女はなら、確かに男達の目を引いてもおかしくないのかもしれない。
だが───………
それがなんだか、とても気に食わない。
俺以外の男も惹き付けること。
俺以外の男達が、美依を愛らしいと思う事。
そして……
美依がその男達の視線に気がついていない事。
無自覚に振り撒かれるその可憐さは、男達を自然と魅入らせ、虜にするのだ。
美依は俺だけのものだ。
その可愛さは俺だけが知っていればいい。