第7章 揺れるびいどろ、恋ノ花模様 * 織田信長
「あまりそのように愛らしい顔をするな、天主から出したくなくなる」
「…っいきなり口づけるからです」
「ふっ…俺のせいか。まあいい、今少しばかり唇を寄越せ」
「んっ…っ」
そうして身体を引き寄せ、また唇を奪う。
美依はたどたどしくも、懸命に応えてきて…
熱くなりだした身体に夏の暑さが助長して、まるで焦げるような心地さえ覚えた。
(以前は冷え切っていたのが嘘のようだ)
恋仲になり『冷えた俺を温める』と言った美依はいつも傍にいて温もりをくれる。
いつしか凍った心は溶けて…
あんなに眠れなかったのに、美依の温かさのお陰で深く眠れるようになった。
こやつが俺にもたらした変化は、計り知れない。
そして、俺の心に『愛しさ』を植え付けた。
こやつを想えば想うほど…
心に炎が灯り、鮮やかに華開くのだ。
「美依…」
「…っのぶ、様ぁ……」
俺と美依はそれからひとしきり触れ合い、夏の暑さにも負けない熱で想いを焦がした。
美依が俺に与えた、数々の"変化"。
それを俺は今宵の夏祭りで、良くも悪くも目の当たりにする事になる。
今まで一人の女を気に掛けるなどしてこなかった俺が、初めて抱いた"どす黒い感情"。
それは俺を苛立たせ、美依に対しても酷く責めるような…
そんなみっともない自分を晒す逢瀬にろうとは、その時の俺は知る由もなかったのだ。
*****
「わぁ〜…賑わっていますね!」
それから日が落ち、こっそりと城を抜け出した俺達は、馬に乗って目的の村までやって来た。
神社に着くや否や、祭りの熱気が伝わってくる。
鳥居から奥に露店が並び、何かを炙ったような匂いや、喧騒に包まれ…
そんな賑やかな雰囲気を見て、馬を降りた美依が玩具を見つけた子供のように目を輝かせた。
「大した賑わいだな、活気がある」
「露店もたくさんありますね、見て回るの楽しみ!」
(……本当に愛らしい女だ)
はしゃぐ美依を見ていると、少しだけ日常から離れたようでとても心が穏やかになる。
普段は血にまみれた天下布武への道なれど…
こうした"息抜き"も時には必要だと、ふと思った。