第6章 エゴイズムな純情戀歌《後編》* 豊臣秀吉
「信長様から言伝です。『俺の許しも無しに公務を休むとはいい度胸だ。だったら今日一日休んで構わん。その代わり、明日から倍…俺の為に役に立て』だそうです」
「なっ…!信長様、怒ってらっしゃるのか…!」
「違います、体裁よくあんたを休ませようという魂胆です。あんたは休まなすぎなんですよ、だから今日は一日ゆっくりしてください」
「でもなぁ……」
「……ところで、秀吉さん」
あまり納得がいかないでいると、家康はいきなり話を切って、ずいっと俺の顔を覗き込んできた。
突然の動作に若干後ずさりすれば…
家康は珍しくふっと笑みを漏らし、さも当たり前のように『その話題』を振ってきた。
「美依と恋仲になったんなら…ちゃんとみんなに報告してくださいよ?」
「……っ、お前なんでそれを……!」
「女中達の反応みれば、すぐに解りますから。それに、美依を焚き付けたのは俺なので」
「そ、そうか……」
(焚き付けたって……)
一体いつの間に、そんなやり取りがあったのだろう。
家康と親密になっていたなら、それはそれで若干妬けるが…
もしかしたら、色々あって美依も悩んだりしたのかもしれない。
美依が起きたら、その辺りも聞いてみないとな。
そんな話をして、家康はそのまま帰っていった。
俺はと言うと、一日休みという事で…
また部屋に戻り、未だ褥でぐっすりと眠る美依の隣に寝転んだ。
もう少し、せめて寝ている間くらいは余韻を楽しんでもいいだろう。
そう思い、その細い髪を優しく梳くと。
「ん……?」
髪を掻き上げて現れた、白い首筋。
そこにくっきりと赤い華が咲いているのが解り…
俺はそれを見て、思わずため息をついてしまった。
『美依…っ、お前は俺の、だろ?』
昨夜、激情に駆られて付けた痕。
明らかに独占欲丸出しの、えげつない自分の姿を象徴しているものだ。
それでも美依が可愛く乱れるから。
お前が可愛すぎるのが原因だぞ?と…
美依に責任転嫁しながら、その痕を指でなぞる。
「……ずっと、俺の傍にいろよ?」
ぽつりと呟き、痕にそっと唇を押し当てた。
その小さな温もりが愛しくて…
俺はいつまでも、その寝顔を眺めていた。